秋田禎信『カナスピカ』読了 / 批評的に正しいことと面白いこと

カナスピカ

カナスピカ

 「あの秋田禎信が」「講談社から新刊を」「しかも児童文学ジャンルで」「出す」との情報を得たときの僕の感情はといえば「楽しみなような」「一切そうでもないような」という例のアレ、TRPG的にいえばその期待度は1D20*1といったところであり、本屋の新刊コーナーでその姿を見かけては二、三回前を往復したところで結局素通り、などという生活を一ヶ月あまり過ごすことになったわけであるが、久しぶりに図書館というソリューションを思い出したのでそれで解決することにした。まあ現在のところその判断は誤っていなかったという認識かな。僕にはこの本の価値が見出せん。
 なんというか、批評的に正しすぎる、という感覚なのだ。ゲーム的な、という表現は安易であれだが、ともかくそういった90年代ラノベトレンドを最先端で駆け抜けた筆者がいま、『日常の価値』を問い直しますといったような。そりゃそうなるでしょうよ、という出来レースじみたものを感じてしまう。
 この感覚は古橋秀之の『冬の巨人』を読んだときにもあったものだ。正しすぎて物足りない。収まりが良すぎる。90年代にあまりにもピーキーなことをしでかして、一つの時代の要石となったような連中が、今になって仕切り直すかのようにお行儀の良い作品を仕上げてくる。批評家にマルを付けてもらえるような作品を仕上げてくる。そういう流れがここのところ目立つ。
 「正しいこと」は「面白いこと」なのか? これは涼宮ハルヒは成長するべきなのか問題とかロボ娘は感情を手に入れるべきなのか問題とかいった亜流にも繋がる、僕の中ではわりと重要な問題なのであった。
 評価:【C+】
冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

*1:20面体ダイスを1個振る、の意。値のばらつきが大きすぎるということ。