グレッグ・イーガン『宇宙消失』読了。

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

 量子力学の分野に観測問題というやつがある。この言葉をご存知ない方でも、箱の中に猫を詰めてその子が死んだり死ななかったり半分だけ生きてたり、みたいな思考実験の話は聞いたことがあるだろう。それ関係のお話である。
 “観測者”が物事の観測を行った瞬間に『波束の収縮』が起き、現実はひとつに固定される。とりあえずこの前提に立つとして、じゃあその“観測者”ってどんなものまで許されるの? 人間が観測すると対象は収縮する、これはわかった、じゃあすっごい賢いおうまさんが観測した場合はどうなるの? 観測装置は観測者にはなれないの? イーガン先生答えて曰く。「“観測者”には人間以外なれないよ。なぜって『波束を収縮』させるのは、人間特有の“能力”だからね」
 宇宙では波束は収縮せず、拡散状態にあり続けるのがデフォルトであり、観測しただけで事物を収縮させる地球人類が異常能力者なのだという発想。宇宙の彼方に拡散状態で存在している地球外生命体の皆さんは、無自覚に宇宙を収縮させまくる地球人の台頭に困ってしまい、困ってしまうのであった。一方、『波束を収縮させる脳神経系』の存在に気づいた地球人は、その神経系を再結線(モディフィケーション)することで能力を封印、波束を収縮させない人間を創りあげることに成功するのであった。もう一歩進んだ研究は主人公に超絶能力を付与し、なんだかんだあって世界は人類補完計画の様相を呈するのであった。ワンダフルイーガンワールド。でもちょいと疲れたな。
 
 評価:【B+】【心】