滝本竜彦『NHKにようこそ!』感想
- 作者: 滝本竜彦,安倍吉俊
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2002/01/28
- メディア: 単行本
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さておき、これがまあなんとも切ない話なのです。てっきり笑いメインだと思ってたんで七割方不意打ちでした(完全に不意打ちでした、の角が丸い表現)。特に胸に来たのは先輩のキャラクター造形。これ見よがしに『完全自殺マニュアル』を読む、頭がおかしいフリをするのが好きな女子高生……うわー結構そこらへんにいそうだー。
この先輩に限らず、引きこもり四年目の主人公、エロゲー製作に自己実現をかける山崎くんなど、イタい人がたくさん出てくるのですが、その彼らみんな自分のイタさを自分で客観的に理解できてると言いますか、自分自身をメタに見れてしまっているのが何よりも辛い。自らのイタさをジョークにできる程度の客観性。その冷静さこそが、直面しているあらゆる問題の元凶ではないのか――むむ、他人事ではないぞ。
そういうわけで、装飾過剰気味でありながらリアリティのある登場人物、がこの作品の大したところだと思うのですが、残念なことにその点に関して、ヒロインであるところの岬ちゃんだけ弱い。彼女だけ、どうにもファンタジー色が強すぎるのです。
良くて平凡、悪くすると社会不適合者な主人公がなぜか美少女にモッテモテ――ギャルゲーで頻繁に見られる景観でありますが、その不合理を回避、或いは緩和するために、かねてより様々な属性による支援が試され、有効だと判断されてきました。属性の代表例として、Ein Besseres Morgenではメイド・妹・白痴を挙げておられます。要約すれば、『メイドならばダメ人間な主人公に好意を寄せても仕方がない』『妹ならばダメ人間な主人公に好意を寄せても仕方がない』『白痴ならば――』ということになります。
『NHKにようこそ!』においても同様の手法が採られています。ガッチガチのダメ人間である主人公に接触を試みる岬ちゃんには『対人恐怖症』の属性*1が与えられ、不合理を覆い隠そうとします――。
これがギャルゲーであれば、それで十分だったでしょう。ギャルゲーをやる際、プレイヤーは既に専用のマインドセットを済ませていることが期待できるからです。しかしこれがギャルゲーでない以上、この属性だけでは完全な隠蔽は難しい。そしてこのファンタジー色、嘘臭さは、実はリアル志向であるこの物語においては致命的な欠陥であるように思えるのです。
……などと言いつつ、岬ちゃんの二枚目の契約書の文面にぐわんぐわん来たのもまた事実。誉めたいんだか貶したいんだか自分でも良く分からないまま、
評価:【B】