鬼が来たりて字を正す

活字狂想曲 (幻冬舎文庫)

活字狂想曲 (幻冬舎文庫)

 倉阪鬼一郎『活字狂想曲』読了。本格デビュー前、とある印刷会社に勤めていた鬼一郎先生が、11年間の社内サバイバルの末ついにインテリをこじらせて辞めるまでを描いた自伝的『漫文』である。乾いたユーモアに支えられた文章の隙間からそこはかとなく漂う殺気、鬼一郎先生の“ホンモノっぽさ”がマジで怖い。会社の理不尽な制度も怖いけど、対抗する鬼一郎先生も相当なもの。だってだって、辞める直前に吐いた言葉が「俺を誰だと思ってるんだ!」ですよ。フィクションじゃないですよ。リアルワールドで、上司を相手にですよ。「普通の社会で鬼が暮らしていたからこその緊張感」というあとがきの言葉が的を射すぎでにんともかんとも。
 以下、心に残る名言集。
 「毎年一人づつ営業が急死する」
 「営業の某さんは死んでも版下を放しませんでした」
 「暗坂くんの小説は……」「ひと言でいえば、異常……」
 「この人はどうも病人に見えるが、しかるべき確証が得られない」
 「君の脳波は汚いんだよね」
 「一昨年、頭が本格的におかしくなったとき」
 「ひょっとすると、人を殺しても罪にならないのではないかと思う」
 「車と女のことしか考えていないバカどもが」
 「まったく大衆は度しがたい」
 「俺を誰だと思ってるんだ!」
 就活中の身の上としてはリアルスール制に震えがきますね。先輩社員が「おにいさん」「おねえさん」になって会社に慣れるまで交換日記をつけるという……恐ろしい恐ろしい。
 
 評価:【B+】