コンラート・ローレンツ『ソロモンの指環』読了。

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

旧約聖書の述べるところにしたがえば、ソロモン王はけものや鳥や魚や地を這うものどもと語ったという。そんなことは私にだってできる。

 『攻撃』(感想→id:rindoh-r:20051217)も大概読みやすかったものだが、そのさらに三倍は読みやすい動物学者ローレンツ先生の御本。啓蒙分・学術分は控えめで、おもしろ研究エッセイ、また偉人萌え本としての側面が強い。
 ローレンツ先生は動物と話すことができる。恐ろしいことにこれは文字通りの意味である。ローレンツ先生が(鳥語で)叫べば鳥は飛び立ち、ローレンツ先生が(鳥語で)唸れば帰ってくる。リスニングだって完璧だ。動物の鳴き声を一声聴けば、その意味するところはすぐわかる。魔法の指環なぞ必要ないぜ。今日も今日とてローレンツ先生、街中でオウム語を絶叫だ。戻ってくるオウム。振り返る町民たち。
 また、ローレンツ先生は動物と暮らしている。常に動物と生活を共にすること、それが動物行動学の基本中の基本。もちろん、動物は自然状態に近いほど望ましい。檻に入れるなどもってのほか。ローレンツ先生宅は野生の王国。
 ある日、ローレンツ先生は数羽のワタリガラスを飼うことにした。これは相当大型の動物である。そして当時、先生には幼い娘さんがいた。これは少々危険かもしれない。
 このときばかりはローレンツ先生、さすがに檻を買ってきた。そして、『娘を檻に入れた』。「『研究は遂行する』、『娘も守る』。両方やると言うのは、そうムズかしい事じゃあないな」。ローレンツ先生高笑い。先生の奥さんも高笑い。
 天才とアレは紙一重だと言うけれど、ローレンツ先生はノーベル賞も取った偉い学者先生だから天才の方だ。鳥のコスプレして屋根に登ってカラスの群れに襲われて騒ぎを聞きつけた村人たちに可哀想な人を見る目で囲まれたりしてるけど、天才の方だ。