我孫子武丸『まほろ市の殺人 夏 夏に散る花』読了

まほろ市の殺人 夏―夏に散る花 (祥伝社文庫)

まほろ市の殺人 夏―夏に散る花 (祥伝社文庫)

 メイントリックの概念自体はちょっと面白く、魅力的に感じるのだけど、しかし、それを成立させるため便利病に頼らざるを得なかったところにこのトリックの限界もある。便利病というのはあれだ。古典でいえば、普段は取りたてて不健康そうでもなく雪の町並みを軽装で闊歩したりしているが実は余命が一日の誤差もなく判明しておりその日に日付が変わると同時に眠るように息を引き取る不治の病とか、そういった作劇上便利すぎる病気のことだ(本作で導入されるものはここまで極端ではないが)。
 このことには我孫子自身も引け目を感じているのか、トリックよりもドラマを主体としたつくりにはなっている。なっているが、それにしてはこのお話はちょっと短すぎる(文庫で120ページくらい)。感情移入する間もない。結果、ミステリとしても、感情高揚ものとしても、中途半端なものが出来あがってしまった、という印象である。
 やっぱり中編という長さは難しいのだな。我孫子先生ほどの巧打者でも戸惑ってるもの。同じ条件下であれだけのことをしでかした麻耶雄嵩id:rindoh-r:20051205)はさすがに規格外。
 
 評価:【B】