ジャック・リッチー『クライム・マシン』読了

クライム・マシン (晶文社ミステリ)

クライム・マシン (晶文社ミステリ)

 『このミステリーがすごい!』2006年海外編で第一位だった短編集。ジャック・リッチーさんというのは1950年代から1980年初頭にかけて活躍なさったアメリカの作家で、その間350もの短編を書いたという“短編のスペシャリスト”だとか。とにかく無駄を省き、『簡潔に書く』ことを志向した非常にプレーンな文体で、これが大変読みやすい。そうか、アメリカ人が全員アメリカ文体を使うとは限らないのだな……。
 全部で十七編を収録。どれもこれも高水準なクライム・ストーリー。特に印象に残ったのは『歳はいくつだ』『殺人哲学者』『切り裂きジャックの末裔』あたりかな。
 ◆『歳はいくつだ』
 DQNを狙う殺人鬼の跋扈を受けて、世間が段々礼儀正しくなっていく話。そう、デスノートです。リボルバーと捨て身と強運でデスノートをやるような話。
 ◆『殺人哲学者』
 なんと五ページ。『狂った動機』系の話としてデザインされているのだと想像しますが、これが実に納得できる。共感できる。時代が小説に追いついた! とか言ってみる?
 ◆『切り裂きジャックの末裔』
 これは面白い。「切り裂きジャックの正体は実は……オレでしたァー!」という妄想に取り付かれた男が十九世紀のイギリスにいて、自身のドリーム犯行を日記にしたためる。で、その日記が子孫に伝えられていき、我々は切り裂きジャックの血を継ぐ者だ、という妄想に一族全体が感染する。
 つまり狂気が相続されていく話。何かロマンを感じました。
 あと巻末。『短さ』の追求に関して、解説にこんな萌えエピソードが載っていました。

最晩年のインタビューで彼(引用者註:彼=ジャック・リッチー)は、「自分がこれまでに書いた最も短い物語」を披露している。それはわずか二つのセンテンスからなるものだった。(中略)そして彼は言った。「まだもう少し削れると思うんだよ」

 先生、その行き着く先はHAIKUです。
 
 評価:【A】