今週のテニスの王子様(Genius 321) / 『不二周助=涼宮ハルヒ仮説』の破綻と展開

 敗けた……。あの“敗けずの不二”が、ハンデなしのシングルス戦で敗けてしまった……ッ!
 これまでのテニス界の常識を根底から覆す、大激震の一話であります。我々が長年温めてきた『不二周助涼宮ハルヒ仮説』も、語る機会に恵まれないまま破綻してしまいました。まことに残念でなりません。

不二周助涼宮ハルヒ仮説とは
 長年我々を悩ませてきた「なぜ不二は敗けないのか」という疑問──通称「なぜ不二」問題に対し、量子力学的多元宇宙論の観点から説明を試みた仮説。これまで、不二が試合において劣勢になると決まって豪雨、あるいはラケットの破損といったアクシデントが発生し、決着は回避されてきた。これは不二が軽度の涼宮ハルヒであり、周囲の環境情報を(恐らくは無自覚的に)都合の良いものに改変する能力(註)を有しているからだ、と主張する。
 
 (註)環境情報を改変する能力
 より正確を期するならば、「改変する」のではなく、無限に存在する平行宇宙の中から望み通りの世界を選択する能力である。詳しくはグレッグ・イーガン『宇宙消失』を参照されたい。

 いや……待てよ。現時点でこの仮説を破綻と断ずるのは、少し性急にすぎるのかもしれない。
 今まさに、このテニスコートに向けて直径十キロを超える巨大隕石が落下中でないとは誰にも言えないのだ。流行りの弾道ミサイルでも良い。会場と、試合を目撃した人間の生命、それら全部ごと勝敗をうやむやにしようとしている可能性も……。
 ゼロではない。
 いや、それ以前に……。
 今我々が見ているのが、「不二周助に選ばれなかった世界」であると考えれば。
 次号、何の説明もなく「不二が勝った世界」の話に移行しているという可能性も……。
 ゼロではない。
 ゼロではないんだってば!