森見登美彦『新釈 走れメロス 他四篇』読了

新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇

 『夜は短し歩けよ乙女』がまだ途中なので断言はできない。できないがしかし、直感はできる。現状、森見登美彦の最高傑作であろう、と。特に一つめ、『山月記』は(こと私にとっては)凄まじく、恥ずべきことではありながら、「哭きながら一気に読みました」の呪文を使わしめるに至ったという。簡単に要約すると、文学に憑かれた青年が大文字焼きのお山にこもって天狗になる話である。そしてこれ以上の説明はできないのである。
 一方、一番「よくできている」と感じたのが表題作の『走れメロス』。この世に虚でしか語られぬ真実があるように、果たされぬことでしか果たされぬ約束があり、証明されぬことでしか証明されぬ友情がある、という話でありながらその実その辺はどうでもよく、とにかく最初から最後まで「疾走する文章」(原作再現)を叩きつける快作。そして不思議集団『図書館警察』『詭弁論部』が再登場。今後とも森見作品のレギュラーになるようです。
 評価:【A】