乙一『小生物語』読了

小生物語

小生物語

 web上で連載していた乙一の日記をまとめたもの。2003年の11月から2004年の12月くらいまで。ちょうど『ファウスト』創刊の時期にあたるわけで、西尾維新佐藤友哉滝本竜彦ファウスト派の名前がちらほら出てくる。
 なんとなく現実3:嘘7くらいの妄想日記をイメージしていたのだが、読んでみたら実際は8:2くらいだった。つまり普通の日記だった。普通の日記にあまり用はないのだった。
 しかし、東京に転居した理由のメインが「伊集院光のラジオがクリアに聴けるから」であるあたり、とても他人事とは思えないのであった。
 
 評価:【C+】

今夜は眠れない

 なにせ起きたの夕方六時だったからな。前日ひさびさに麻雀やったことでなまってた麻雀脳が筋肉痛を起こしたのかもしれない。情けないことである。首も相変わらず痛いし。
 そういうわけで、もう少し感想文でも書こう。《眠れない夜には読書感想文を》。思えば小学生の頃の僕は読書感想文が嫌いだった。理解に苦しむ。

くらのかみ (ミステリーランド)

くらのかみ (ミステリーランド)

 小野不由美『くらのかみ』
 『かつて子どもだったあなたと少年少女のための"ミステリーランド"』シリーズ、小野不由美のターン。トラウマ本ばかり読んでないで、たまには正統派ジュブナイルサイドを読んでみようではないか、そして郷愁にひたったりしてみようではないか、そうすればこのくさくさした心も潤うかもしれないではないか、などと考えて手を伸ばす。伸ばしたのだが――。
 なぜだろう。なぜこんなにわくわくしないんだろう。
 要素を取り出せば、面白そうな箇所はあるのですよ。座敷童子当てとか。というかこのワードに惹かれて読んだようなものなんだけど、これの扱いが結構おざなりというか、幻想的な楽しさみたいなのが伝わってこないからかな。やっぱり座敷童子ときたら、宮沢賢治の『ざしき童子のはなし』的な、アイデンティティに関わる不気味さがほしいんです。だって、一人増えても誰も気づかないってことは、一人減っても誰も気づかないってことですよ。怖いじゃないですか。どきどきしちゃうじゃないですか。そういうのが生かされてないんだよなあ。もったいないぜ。
 まあ、犯人当てはそこそこ真面目に作ってあるし、まっとうな教訓もあるし、子どもに安心して読ませられる本ではあると思う。が、そんなものは僕の評価基準には入っていないのであった。むう。
 
 評価:【C】

水をワインに、ワインを血に

邪眼 (集英社スーパーファンタジー文庫)

邪眼 (集英社スーパーファンタジー文庫)

 藤原京『邪眼』読了。その続編、同じく『呪願』も読了。
 藤原京と書いてふじわら・たかしと読む。ジャンルはオカルト、レーベルは集英社スーパーファンタジー文庫。ちなみにこのレーベル、今はもうない。つまり、絶版本の類いである。
 随分前に後輩嬢に薦められて以来、長らくほっぽっといたものをようやく読んだのだが、これが存外に存外な作品であった。面白い、と言い切ってしまうには違和感があるのだが(少なくともお話の構成力は皆無に等しいと思う)、独特の雰囲気があるのは確か。暗く、殺伐として、しかもドライだ。この世界、弱者は路傍に屍を晒すのみよ……もっとも、強者とて不条理に死ぬのだがな!
 設定は見事に僕好みで、ソロモンの七十二の悪魔とか出てくる。悪魔と契約した人間がその力を使って調査したり街中でバトったりするのだが、二巻の時点で類推できるルールをまとめておくと、
・悪魔と人間の契約関係は一対一。一人で複数の悪魔を所持したり、一体の悪魔を複数でシェアすることはできない。
・悪魔の能力は多岐にわたり、戦闘に強いもの、情報収集に役立つもの、毒物・病などの搦め手を使うものなどがいる。
・悪魔と契約した人間は悪魔の力の一部を使えるようになる。強い悪魔ほど得られる力は強い。が、『一流の悪魔と契約した人間の力<三流の悪魔の力』が大体成り立つ。
・多くの悪魔は気まぐれであり、契約主の言うことをあんまり聞かない。というかそもそもコミュニケーションが明確に成立しない。
 といった具合。ここで凶悪なのが第四項、悪魔の気まぐれである。悪魔は気まぐれなので、戦闘に際して、その力を作戦に組み込むのは愚かだ。自分の悪魔が一緒に戦ってくれるのを期待するのは愚かだし、逆に敵の悪魔が参戦してくるというゴミクズみたいな可能性を恐れるのもまた愚かだ。――しかし、悪魔は気まぐれなので、気まぐれに参戦する可能性は常にあるのだった。そしてそいつが戦闘系であれば、敵方の悪魔の登場は100%の死を意味するのであった。不条理死である*1
 この不条理死こそが、この世界の雰囲気を規定していると言って良い。頑張っても死ぬ。頑張らないともっと死ぬ。でも、慌てず騒がず、淡々とこなしていこうじゃないか。悪魔と契約してしまった以上、それは仕方ないのだから。そんな感じの話である。
 
 評価:【B】

*1:敵がペイモン・黒沼ペアを厄介に思う理由がよくわかる。さんざん苦労して、戦術を立て、死地に追い込み、黒沼ついに仕留めたりと快哉を上げたところで、十六分の一くらいの確率で現れる気まぐれペイモン。ペイモンは最強クラスの武闘派悪魔である。すべての努力が水泡と帰す瞬間。所詮十六分の一、されど十六分の一である。本当はもっと高いかもしれない。不条理だ。