水をワインに、ワインを血に

邪眼 (集英社スーパーファンタジー文庫)

邪眼 (集英社スーパーファンタジー文庫)

 藤原京『邪眼』読了。その続編、同じく『呪願』も読了。
 藤原京と書いてふじわら・たかしと読む。ジャンルはオカルト、レーベルは集英社スーパーファンタジー文庫。ちなみにこのレーベル、今はもうない。つまり、絶版本の類いである。
 随分前に後輩嬢に薦められて以来、長らくほっぽっといたものをようやく読んだのだが、これが存外に存外な作品であった。面白い、と言い切ってしまうには違和感があるのだが(少なくともお話の構成力は皆無に等しいと思う)、独特の雰囲気があるのは確か。暗く、殺伐として、しかもドライだ。この世界、弱者は路傍に屍を晒すのみよ……もっとも、強者とて不条理に死ぬのだがな!
 設定は見事に僕好みで、ソロモンの七十二の悪魔とか出てくる。悪魔と契約した人間がその力を使って調査したり街中でバトったりするのだが、二巻の時点で類推できるルールをまとめておくと、
・悪魔と人間の契約関係は一対一。一人で複数の悪魔を所持したり、一体の悪魔を複数でシェアすることはできない。
・悪魔の能力は多岐にわたり、戦闘に強いもの、情報収集に役立つもの、毒物・病などの搦め手を使うものなどがいる。
・悪魔と契約した人間は悪魔の力の一部を使えるようになる。強い悪魔ほど得られる力は強い。が、『一流の悪魔と契約した人間の力<三流の悪魔の力』が大体成り立つ。
・多くの悪魔は気まぐれであり、契約主の言うことをあんまり聞かない。というかそもそもコミュニケーションが明確に成立しない。
 といった具合。ここで凶悪なのが第四項、悪魔の気まぐれである。悪魔は気まぐれなので、戦闘に際して、その力を作戦に組み込むのは愚かだ。自分の悪魔が一緒に戦ってくれるのを期待するのは愚かだし、逆に敵の悪魔が参戦してくるというゴミクズみたいな可能性を恐れるのもまた愚かだ。――しかし、悪魔は気まぐれなので、気まぐれに参戦する可能性は常にあるのだった。そしてそいつが戦闘系であれば、敵方の悪魔の登場は100%の死を意味するのであった。不条理死である*1
 この不条理死こそが、この世界の雰囲気を規定していると言って良い。頑張っても死ぬ。頑張らないともっと死ぬ。でも、慌てず騒がず、淡々とこなしていこうじゃないか。悪魔と契約してしまった以上、それは仕方ないのだから。そんな感じの話である。
 
 評価:【B】

*1:敵がペイモン・黒沼ペアを厄介に思う理由がよくわかる。さんざん苦労して、戦術を立て、死地に追い込み、黒沼ついに仕留めたりと快哉を上げたところで、十六分の一くらいの確率で現れる気まぐれペイモン。ペイモンは最強クラスの武闘派悪魔である。すべての努力が水泡と帰す瞬間。所詮十六分の一、されど十六分の一である。本当はもっと高いかもしれない。不条理だ。