裏の裏は表だって? 僕、トポロジーの星から来たものだから……。

 《キシマ先生の静かな生活 トリック》のキーワードでネットの海をぷかぷか。
 というのも、森博嗣好きの友人から「あの作品には実は裏の意味がある、という噂を見かけた」との情報を頂いたからである。
 引っかかった七十件ほどに全て眼を通す。確かに「裏の意味がある」という主張は見かけるのだが、ではその裏の意味とは何なのか、という肝心な点については判らず。しかし、大好きな『女王の百年密室』に後から色々意味付けがなされて若干の興醒めを感じたように、知らないほうが楽しめるタイプの事柄かもしれない。とゆか森博嗣、「あの作品には実はこんな隠された意味が!」ネタ多すぎです。確かにそゆネタは「気付いた読者」「気付かない読者」の篩い分けを発生させ、「気付いた読者」の自尊心を満たしてくれる装置としてとても巧く機能していると思いますが、流石にそろそろしんどくなってきました。『月は幽咽のデバイス』のオスカーが何の動物なのか、とか『夢・出逢い・魔性』の本当の犯人が誰なのか、とかどうでも良いじゃないか……。(註)
 答え合わせをしていても虚しくなるばかり。掠めた星の数を競うのかい?
 
 (註)
 いや、どうでも良い、とまでは言わない。でもみんな、エヴァンゲリオンの深読みとか見てて不毛な気持ちになったでしょう? ってあ、違うか。エヴァの謎はいわゆるマクガフィン(註の註)だったのに対し、森作品は考えれば答え出るようにデザインされてるっぽいからなあ……。余計タチ悪いぜ。畜生、大好きだ。
 (註の註)
 マクガフィンというのはヒッチコックが提唱した概念で、簡単に言ってしまえば物語を牽引するために用意された意味なしの謎、のこと。それは作中人物にとっては重要だが、鑑賞者にとってはどうでも良い事物であり、エヴァで言えば人類補完計画だとか、その手の謎がマクガフィンに当たる。作中人物は人類補完計画に関して謀略を巡らせたり、スパイしたり、真相に近づきすぎて命を落としたり、そんなこんなで物語は進むが、人類補完計画自体には何の意味もない、というわけである。聞きかじりの知識なので、かなり乱暴な説明だと思う。

まどろみ消去 (講談社文庫)

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