学会に行ってきました(という名前のクッキー)

 さて、学会発表である。僕もバチェラー・オブ・サイエンスですので、学会の一つや二つ出るのです。ちなみにバチェラーの和訳は(交尾相手のいない)雄のアザラシ、或いは学士です。
 八時半、研究室の同僚と共に会場へ。講演開始は九時半だが、我々は発表者兼バイトなので早めに来て会場の設置。発表は主にパワーポイントで行われるので、そのデータを演者から受けとってパソコンに入れていくのも僕らの仕事。その際ちゃんと動くかどうかチェックするのだが、ぱっと見ただけでも分かるレベルの違いにぶるぶる。こっちは卒論にちょっと毛が生えた程度で発表するというのに……。
 所属を見ても錚々たるメンバーで怯える。東京大学理学部、京都大学院、東芝技術開発部、日本洞窟探検協会……。
 「ってなんだ。日本洞窟探検協会って」
 「なんかNPO団体らしいでよ。洞窟を探検する」
 「そいつらはあれか、川口浩探検隊か。懐かしの」
 その場違いネームにかなり救われる。俺たち陽気な場違い仲間。いえー。
 十一時半、発表終了。発表時間をギリギリまで使って質疑応答時間を最小限に抑える、分からない質問に対しては「それはまだ検討段階であり、確定的なことは言えません」でばっさり斬り捨てる、等など講演の内容は稚拙ながら戦略の老獪さで乗りきる。あとは見るだけ、働くだけだー。同僚は発表が午後の部なのでまだ青い顔をしているが、それを見ると余計はしゃいでしまうわけです。
 そして全ての発表が終わった夜の七時、謝恩会の始まり。
 一般的に、学生にとって学会後の懇親会というのは重要な戦略的要衝だと言われています。自分と同じ分野の研究者、また企業の方が多数いらっしゃっているわけですから、更なる進学を志す者にとっても、専門分野への就職を希望する者にとっても、名前を売り顔をつなぐ絶大なチャンスとなり得るわけです。私と同僚くんは就職希望なので、この場は近い将来訪れる就職活動の前哨戦といっても過言ではないでしょう。そこで我々の取った行動は──。
 「どうする、リンドウ」
 「知らない大人がいっぱいいて怖い。帰ろう」
 そういうことになった。