森博嗣『工学部・水柿助教授の日常』(再読)

工学部・水柿助教授の日常 (幻冬舎文庫)

工学部・水柿助教授の日常 (幻冬舎文庫)

 若き日の森博嗣風人物を主人公にした、私小説風かつweb日記風な何か。
 裏表紙や帯には、いかにも北村薫日常の謎系作品であるかのような宣伝文句が書かれていますし、実際に序盤では『黒後家蜘蛛の会』の露骨なパロディをやってみたりしてそのように見せかけていますが、実はそれこそが最大のミスディレクション。中盤から先はミステリであることを(少なくとも一般的にミステリと呼ばれる形式を)綺麗さっぱり諦めて、日常的風景をつらつらと書き綴るだけ。なんというメタなトリック! (アンフェアともいう)
 しかし、それでいて大層面白いのだから、ほとほと始末に負えません。
 全く事件が起きない中(或いは極めて地味な出来事の中)、気の利いた思索と修辞的表現の遊びだけで飽きさせずに読ませるというのはweb日記書きの常套手段と言えますが、森博嗣はこれに関してもとてつもない力量を持っていると確信できます。うーん、日記シリーズも読んでみるべきかな。あれ、凄い分量あるんだよなあ……。
 評価:【B+】
 
 おっと気づけば森三連続だ。森信者だってことがバレる。森信者は客観的に見てキモいと思うので気をつけよう。