『伝奇集』おぼえがき。
- 作者: J.L.ボルヘス,鼓直
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1993/11/16
- メディア: 文庫
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評価:【B+】【心】
以下、ほとんど自分用のメモ。
◆『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』
ある特定の百科事典にのみ記載されている架空の国・ウクバール、そしてその一地方であるトレーンを巡るお話。
少ない資料から推察される、トレーンにおける特殊な(しかし一貫性のある)科学、哲学――例えばトレーンの住人は生まれながらに唯心論者であるとか、言語に名詞が存在しないとか――に関する説明が長々となされる。
しかしいくら厳密な説明がなされようとも、飽くまでトレーンは架空の世界だ。ある学者たちの秘密結社(薔薇十字団?)によって創られた壮大な『設定』、大掛かりなイタズラにすぎない。――と思いきや、終盤、世界はトレーンに置き換わり始めてしまう。なぜか? 以下引用。
(前略)現実は、われわれが究極的には認識しえない神の法則――換言すれば、非人間的な法則――にしたがっている。トレーンは迷路かもしれない。だが、それは人間たちによって工夫された迷路、人間たちによって解かれるよう定められた迷路なのだ。
訳のわからない神の法則に従った今の世界の法則よりも、難解でも、人間の手で創られた、秩序ある設定の方が優先された。だから世界はトレーンに変化する。
書物と現実のフィードバック、のイメージだろうか?
◆『『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール』
小説家ピエール・メナールの最後の仕事に関する解説、の体裁を取る小説。
メナールさんは『ドン・キホーテ』を書こうとする。パロディを書くとか、現代風にアレンジするとかいうのではなく、一言一句セルバンテスの原典と同じものを書こうとする! のである(機械的に複写する、のでもない)。
メナールさんは最初、セルバンテスになり切ること(スペイン語をマスターすること、セルバンテスの知らない歴史を忘れること、等)でその仕事を達成しようとするが、「簡単すぎる」のでそのアプローチを捨てる。メナールさん、萌えキャラだ。最終的に、メナールさんはメナールさんの自己を持ったまま、『ドン・キホーテ』のいくつかの部分を、一言一句全く同じに書くことに成功する――そして解説者は、全く同じ二つの文章を比較し、これらは全く違う作品だ、判断するのである。
つまり全く同一のテキストでも、書いた人間の時代背景、思想が違えば全く別の作品になる、ということだろう。この結論はあまり好きではないのだが*2、しかし真実ではあるだろう。
◆バビロンのくじ
おおっとわからん。さっぱりわからん。面白い気もするのだが。
世界に満ち満ちている偶然、それは謎組織のくじ引きによって決定されてきたのだ! なんちゃって! というボルヘス先生の一本背負い?
以下、続いたり続かなかったり。