俺もいくから君もいけ

 しばらく旅に出ていました。これを書いている今も旅先です。雪が降ってます。五月に降る雪というのは妙にべたべたしていて、どこか生き汚さのようなものを感じさせます――でもそこが好き。
 今日も今日とて白ヤギさんはやってきました。こんな僻地に引っ込んでいても毎日手紙を運んでくれるのですから、日本の郵便事情というのもなかなか大したものです(さすがに、人間の配達夫をよこす余裕はないようです)。来るのは決まって夜の二時で、僕は世にも珍しい夜行性のヤギと会っていることになりますが、それはそれとして、今日の手紙は二通でした。開封すると(するまでもないことなのですが)、いつも通り、不採用通知でした。軽く肩を竦め、くずかごに放ります。
 残念でしたね、めぇぇええ、と白ヤギさんは言い、ええ、でも次がありますから、と僕は答えます。
 もちろん僕は、白ヤギさんが僕の内定通知を食べていることを知っています。
 ハサミを取り寄せなくてはいけないでしょう。それと手ごろな石を一つ二つ。オオカミの気持ちを、こいつに味わわせるんだ。
 では失礼します、めぇぇええ、と白ヤギさんは言い、いつもご苦労様です、めぇぇええ、と黒ヤギの僕は答えます。