天国とは神のおわすことなり(Waqwaq)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

 テッド・チャンあなたの人生の物語』読了。
 グレッグ・イーガンと並び称されることの多いチャンさんなのですが、んー、こっちはそれほど嵌らなかったかな。今一つピンと来ない話が多かった。アイデアの面白さではチャンさんも決して引けを取らないんだけど、感情高揚の点において相当負けている。イーガン先生の語り口は切実だが、チャンさんには余裕を感じるというか。改めて、どんな奇抜な設定も“ぼく”(=読者)の問題に収斂させ、無理やり感情移入させるイーガン・メソッドの偉大さを実感します。
 
 評価:【B+】【心】
 以下、気になった短編に関していくつか。
 ◆理解
 後天的に獲得した天才を、自己のために使う者と他者のために使う者の闘い。いかにも寓話。後者が勝利し、前者が滅ぶのは、そういう主張なのか自虐ネタか。
 ◆あなたの人生の物語
 人類とは全く異なる言語・思考形態を持つエイリアン“ヘプタポッド”との意思疎通を研究する言語学者のお話。変分原理の説明で直観的に理解される(少なくとも理解した気になれる)ヘプタポッドの思考、理解した途端に変わる世界。さすが表題作、これは素晴らしく面白いです。
 ◆七十二文字
 魔術が科学の代わりに体系化され根幹となった世界、というあたり古橋秀之ブラックロッド』シリーズを髣髴させる。色々と設定が魅力的(「あと五世代で人類は……滅ぶ!」)なわりに話がそれほど膨らまないのは残念なところ。
 ◆地獄とは神の不在なり
 時折気まぐれに天使が降臨して奇跡が起きたり人が死んだりする、という派手な世界が楽しい一編。たまに地面が透けて地獄が見えるのにどきどき。そしてこの地獄の渋さにもどきどき。
 「別に、君たちの住む地上と大差ないさ。なんの不足もない。ただ、神は存在しないがね」
 この作品に関しては、テッド・チャンの余裕ある、突き放した書きぶりが巧く活かされてるように思う。信仰というものをわりとドライに書いてるあたり、好感度高。