んで、今週の『テニスの王子様』感想(52号)

 二十一世紀初頭に考案されたテニス物理学の暫定的統一理論・《トガシ理論》によれば、青春学園三年・菊丸英二の動態はいわゆる《具現化系能力》の発露として記述される。この理論については皆さん当然お聞き及びであろうし、既に一定以上の賛同は得られているものと思われるが、今週号のエピソードはこの理論の正しさ――というのが大げさであれば、その適用範囲の広さ――を新たに保証するものであると考えられ、極めて重要である。
 今週号にて観測された事象を端的に表すならば、以下のようになる。「青春学園三年・大石秀一郎から発せられた微弱なオーラが菊丸の身体を厚さ数ミリ単位で包み込み、次の瞬間、二人の動きは完全に同調した」。トガシ理論に精通した方ならばもう気づいて頂けたであろうが、この現象は、同理論でいうところの《操作系能力》の発露であると見なせば、容易に理解できるものである。《同調》能力発現の直前、大石の洩らした「(身体が)イメージ通りに動かない」という言葉も、この仮説の傍証となっている。イメージ通りに動かない自分の身体を見限り、より強力な、イメージ通りに動かせる他者の肉体を求めた、という彼の心理が窺え、そこに能力発現の契機を見ることができるだろう。
 大石の能力が以上の仮説の通りであるとするならば、今後の青学黄金ペアの新戦術はこのようなものになるだろう:「身体能力に優れる菊丸を分身させることで数の面で優位に立ち、その上で分身の全てを洞察力に長けた大石が安全な位置からリモート・コントロールする」*1。いささか文学的に表現することを許してもらうならば、『「分身」と「遠隔操作」、この世にこれほど相性のいいものがあるだろうか?』である。大石は精神集中のため、コート脇で結跏趺坐でもしていると良い。これこそがダブルスの無限の可能性、新フォーメーション《大石の空・菊丸の夏》である。

*1:トガシ理論に精通した方ならば、分身系の念能力が構造的に持つ欠陥、いわゆる《カストロの誤謬》をこの戦術が回避していることに気づかれるであろう。カストロは具現化系能力・操作系能力を一人で並行して使おうとしたため失敗した。彼に必要だったのは何よりもまず、信頼できるダブルスパートナーだったのだ。