アヴラム・デイヴィッドスン『どんがらがん』読了。
- 作者: アヴラム・デイヴィッドスン,殊能将之
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/10/26
- メディア: 単行本
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事前に散々悪文だの意味がわからないだのといった評判を聞いていたので(殊能先生も言ってる)覚悟していたのだが、いやいや、全然そんなことはなかった。やたら読みやすい。これは訳者のみなさんが頑張ってくれたということなのでしょうね。もちろん、殊能先生が読みやすいのを中心に選んでくれたってことでもありましょう。
では、各短編ごとに簡単な感想を。ほとんどの作品がせいぜい二十ページ前後なので、内容にはできるだけ触れない方向でいきたい。
◆ゴーレム【B+】 ジャンル:[バカ][SF]
『むかしむかし、カリフォルニアの片田舎におじいさんとおばあさんが住んでいました。ある日の昼下がり、おじいさんとおばあさんが日向ぼっこをしていると、通りの向こうからゴーレムが歩いてきました。』
最初読んだときはピンと来なかったが、ある程度デイヴィッドスン慣れしてから読み返したら超面白い。話聞いてあげろよ! むこうは真面目なんだから!
◆物は証言できない【B+】 ジャンル:[ミステリ]
タイトルの意味がわかった途端にオチも読めるが、素晴らしく綺麗にオチるのでむしろ嬉しい。構成力高し。
◆さあ、みんなで眠ろう【B+】 ジャンル:[SF]
ほのぼのとしたタイトルだが実は……的な。痛々しい結末。
◆さもなくば海は牡蠣でいっぱいに【A+】 ジャンル:[バカ][SF]
ヒューゴー賞受賞作。
どう考えても気が狂ってる。楽しい。
◆ラホール駐屯地での出来事【B】 ジャンル:[ミステリ]
MWA賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)受賞作。
二重の枠構造を破ると作品が現実につながる、という形式。よくできてるのだけど、オチの理解に知識を要する。キプリングの詩なんて知らないよ。
◆クィーン・エステル、おうちはどこさ?【B】 ジャンル:[バカ][呪術]
語り口で読ませる系。童謡を長くしたような雰囲気。
◆尾をつながれた王族【B+】 ジャンル:[SF]
『尾をつながれた王族』たちの映像的イメージにぞくぞく。ほとんど説明なしで突き進むが、最後になんとなくわかったような気になる。
◆サシェヴラル【B】 ジャンル:[ミステリっぽい]
よくわからないけど、最後の台詞が良いから良し。
◆眺めのいい静かな部屋【A】 ジャンル:[ミステリっぽい]
老人ホームの雰囲気と、そこに密接に結びついた動機が良い。笑えないよグラニアさん。しみじみする。
◆グーバーども【B+】 ジャンル:[バカ][幻想]
語り口で読ませる系。話の大枠も『クィーン・エステル』と一緒。『グーバーども』が目に浮かぶようだ。
◆パシャルーニー大尉【B】 ジャンル:[ミステリっぽい]
普通にいい話。人情もの。
◆そして赤い薔薇一輪を忘れずに【A+】 ジャンル:[幻想][呪術]
幻想的な本屋の魅力がボルヘス風。そして恐ろしく切れ味のあるオチ。タイトルも決まってて、最高。
◆ナポリ【B】 ジャンル:[幻想][呪術]
世界幻想文学大賞受賞作。
うむ、さっぱりわからない。
◆すべての根っこに宿る力【A】 ジャンル:[ミステリ][呪術]
普通にミステリとしてよくできている。島田荘司が(もちろん“よい”島田荘司が)書きそうといえば書きそう(幻想的な謎の提示→論理的解決)。
この時代のメキシコ社会の雰囲気も楽しい。呪術がまだ影響力を持ってるんだけど、公務員がその存在を認めるわけにはいかない、みたいな。
◆ナイルの水源【A】 ジャンル:[SF]
あらゆる流行の源である《ナイルの水源》を求め、売れないペーパーバック・ライター(デイヴィッドスンの分身かな)がさまよう話。アイディアが良いだけでなく、主人公が生き生きしてる感。
◆どんがらがん【B】 ジャンル:[SF]
謎の超兵器《どんがらがん》をめぐる冒険活劇。軽いノリの主人公が一昔前のラノベ風。
というわけで大変楽しめた。色モノ作家という側面が強調されているけど、少なくともこの短編集の収録作品を見る限りでは、すごく丁寧に作ってるな、という印象。「素人さんお断り」な小説では決してない。
『さもなくば海は牡蠣でいっぱいに』と『そして赤い薔薇一輪を忘れずに』、合わせてたったの三十ページ。三十ページでここまで楽しめる小説、僕はこれまでに読んだことがない。すごいコストパフォーマンスだ。尊敬する。
評価(総合):【A】【心】