東野圭吾『容疑者Xの献身』読了。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

 皆さんご存知、2006年版このミス・本ミス二冠王。プラス直木賞。ミステリとしては一級、純愛ドラマとしては二級、天才萌えとしては三級、とそんなところかな。確かに良くできてるんだけど、それ以上のものではない、ということで、既存の東野圭吾イメージを覆すものではなかった。なんというかこの人、アクがなさすぎるんですよね。文章にせよ思想にせよ。
 いきなりマイナス面ばかりを強調してしまった感。誉めるべきところは誉めていこう。
 えーと、さすがにトリック回りは巧いです。状況もなかなか異常で、読ませます。いわゆる倒叙形式になっていまして、容疑者Xこと石神さんの偽装工作だとか警察との腹の探りあいだとかを中心に読んでいくことになるんですが、この石神さんが冷静かつ頭の良い子なので、見ていて大変心地良いです。映画の半券のくだりとか、凡人の半歩先を行く頭の使い方。どうにも迂闊な犯人ばかり見てきた我々には、彼のノーミスっぷりが頼もしい。そりゃあ美里ちゃんも惚れるってもんです。
 でもこの人、作中で繰り返し呼ばれるように『天才』かというと、そういうイメージじゃないんですよね。少なくとも犯罪に関しては、浮世離れした天才キャラというよりも、目端のよく利くしっかり屋さんな感じ。そこが、せっかくの数学者設定に今一つそぐわなかった。探偵役の湯川さん(物理学者)に至ってはそれ以上で、その頭脳を披露するようなシーンはない。それで『天才VS天才』とか煽られても……。石神=数学者=演繹的、湯川=物理学者(実験畑)=帰納的、というキャラ分けもまるで生かされないし。がっかりだ。
 仮にも天才を名乗るなら、狂気の一つも見せてくれ。そういうことです。
 
 評価:【B+】