古川日出男『ロックンロール七部作』感想

ロックンロール七部作

ロックンロール七部作

 鼻血が出るほど面白かった。やばい。
 もし貴方が『ベルカ、吠えないのか?』(感想:id:rindoh-r20060205)を読んでいるのであれば、あれにおける【イヌ】を【ロック】に置き換えたような話、と言えば方向性の大体は掴めるでしょう。がしかし、「おんなじか、じゃあ読まなくて良いな」などと思ってはなりません。その勢い、奇想、ポエム力は凄まじく、『ベルカ』のさらに数倍です。良いですか、あの『ベルカ』の数倍ですよ。この成果はおそらく、連作という形式に拠るところが大きいと思われます。『ベルカ』にわずかに見られた瑕疵、それは中盤の展開の微妙なタルさだったわけですが、一部一部の短い本作ではそのような退屈とは無縁。全ての文章に十分すぎる詩情がこめられている上、30ページに一度くらいの頻度でとてつもない『風景』に出くわすことになります。チベットの山奥にエルヴィス・プレスリーのそっくりさんが二十名ばかり集結して突如出現した巨大なプレスリーの石像を見上げる場面とかね、なんつーかもう、眩暈がする。くらくらくる。このシーンに差し掛かった時、僕は大変不幸なことに満員の通勤電車に揺られていまして、湧き上がる衝動のぶつけどころのなさに難儀しました。つい叫びだしちゃうところだったぜ、危ない危ない。(そうか、貴方が僕のブルース・ドライブ・モンスターだったのですね)
 この作品をもって古川日出男は『師匠クラス』に昇格。これは森博嗣殊能将之グレッグ・イーガンに相当するレベルを意味する。しばらくこの先生の許で色々学ぼう。貴方の文章が僕はほしい。
 
 評価:【S】【心】