思い出し読書感想文 / 森博嗣『εに誓って』

εに誓って (講談社ノベルス)

εに誓って (講談社ノベルス)

「これこそ、正真正銘のトリックです。犯人が仕掛けるトリックなんてものは、現実にはほとんどありませんからね」

 では誰が仕掛けたトリックだったのか。それについては本文を読んでもらうとして……。
 Gシリーズの狙いどころというか、方向性が大分わかってきたような気がしてる。それは多分、リアリティとか、現代らしさとか、そういったようなものだ。森先生は今、この時代と現実に即したミステリを書こうとしていらっしゃる。
 この観点で読み解くと、前作『τになるまで待って』(感想:id:rindoh-r:20060208)で使用されたあの恐ろしく渋い密室トリックは、この方向性の《宣言》だったのだな、と理解できる*1。あれを見てノックスの十戒の例の項目に抵触すると思ってしまうような人間は、これからの時代、もう新しいミステリを読むことはできない。一生有栖川有栖でも読んでいろ、とそういうことになります。
 
 評価:【B+】
 

*1:思い返せばVシリーズ第三作、『月は幽咽のデバイス』も《宣言》する回だった。紅子さんは解決編で嘘を吐きますよ、これからいちいち確認しませんよ、OK? という。