阿部和重『シンセミア』読了

シンセミア〈1〉 (朝日文庫)

シンセミア〈1〉 (朝日文庫)

 山形県の片田舎でマルケス百年の孤独』をやるような話。あまりに登場人物が多いので家系図を書きたい欲に駆られたが、書くなと古川日出男先生が言っていたのを思い出したので書かないことにした。まあどうにかなった。
 しかしまあひどい話ですねこれ。シンセミア。何がひどいってまず、出てくるキャラが全員DQN。田舎の住人などDQNがデフォルトと言わんばかりに。作中一番の良識派とされる主人公格・田宮博徳でさえ、趣味はラブホテルの出口調査とコカイン吸引ですからね。一番マシな奴でこれですから、他の連中のアレぶりは推して知るべしという感じです。二番目にまともなのは、そうねえ、ロリコンが高じて警察官になった中山正巡査かなー(警官なら児童を眺めていても怪しまれないジャン! 俺天才じゃね? という発想)。
 この町中にひしめくDQNどもが、各々そのDQNぶりを如何なく発揮し、弱みを握り、脅し、その勢力図を書き換えていく1600枚。実にきつい。吐き気を催す邪悪がそこらにごろごろ。その分、DQNどもが喰い合って崩壊に至る終盤は実に清々しく読めるんですが、しかしこれでDQNどもは一掃されました、という話にもならんのですね。最大勢力たる土建屋一派には傷一つつかないわけで。悪徳の町は悪徳の町のままですよという。なんてこった。
 あと地域密着型自営業者のやばさですね。あれはやばい。町でトップクラスの権勢を誇った『パンの田宮』一家が時ならぬ村八分パワーによって二週間で心中の危機に。村八分怖い。マジ打つ手ない。防御力に関して言えばサラリーマンというのは実に悪くないな、とこの僕をして感じせしめてしまうほどにやばい。シンセミアやばい。
 
 評価:【B+】