結局のところ、ラノベの鬼門はそこにあるのか。 / 米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』読了

 不思議だ。一体僕は、この作品の何がここまで気に食わないというのだろうか。自分で賢いと思ってる高校生が「NO」と言われてへこむ姿は、このリンドウが最も好きなものの一つであるはずなのに……。

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

 基本設定としてはこうだ。人より頭が良く、そしてそのことを少々鼻に掛けている主人公・小鳩くんは、中学時代、その性質故にまわりの人に色々と嫌な思いをさせた(そして自分自身も嫌な思いをした)。なので高校からは心機一転、その性質を封印して平々凡々、“小市民”として生きることを目指している。
 ……のだけど、近くでちょっと謎めいた出来事が起きると、しまったはずの探偵根性が首をもたげてしまう。ついつい要らぬ手を出してしまい、うっかり解決に導いてしまう。そしてそのたび彼はこう言う。「やれやれ羊の振りをするのは難しいねーかんらかんら」とかなんとか。

 ここまでがむかつくのはわかる。そしてシリーズ第一作、『春期限定いちごタルト事件』(感想:id:rindoh-r:20061223#p1)はここまでの話であった。しゃらくさい話であった。しかし今作、『夏期限定〜』では、ちゃんとこのしゃらくささが回収されているのである。主人公くん(とその相棒のヒロインちゃん)の自認している「頭の良さ」に疑念が差し挟まれ、彼らは再び痛い目に遭うことになる。なるほど、こいつらが現状、気持ち悪い連中であるってことは、作者も分かって書いていることであったのだな。少年の成長ものという観点で、成長前の駄目な例としてのしゃらくささであったのだな。『夏期限定〜』はそうやって、第一作にマイナス印象を持った読者でも、溜飲を下げられる作品に仕上がっている、はずであった。
 にも関わらず。やはり僕の、「ヘドが出るほどしゃらくせえ」という感情は収まらなかったのである。
 何故だろう。一度吐いたゲロは、それが誤解によるものだとわかっても飲み込むわけにはいかない、ということだろうか。それほどまでに、「小市民を目指す」という行動指針は受け入れ難いものだったか。
 ああでもそれ以上に、あれかなあ。今作の第一章、『シャルロットだけはぼくのもの』においてヒロインちゃんが行った推理の根拠が超適当で、更にはその程度の推理を聞いてあっさり「たいしたやつだ」モードに入ってしまう主人公くんも含め、あれ、この子ら、もしかしてあんまり頭良くないのでは……? と思ってしまったのが原因かもな。その前提を崩されてしまうとどうにも、全てがおままごとのように感じられてしまう。「しゃらくさいということを指摘されて落ち込むシーン」それ自体がしゃらくさい。一言でいうといちいち大げさなんだよ、お前らはよ、ということになる。
 評価:【C+】
 
 結局のところこれもあれか。「身内で身内を誉め合い出すとヤバい」の文脈か。