「小学校の頃が一番楽しかった」などと言う輩とは僕は友達になれない / ウィリアム・ゴールディング『蝿の王』読了

蠅の王 (新潮文庫)

蠅の王 (新潮文庫)

 内容を一言で説明するならば「十五少年漂流記・残酷版」。こいつはひどいです。いい意味で。

「あの獣が怖いんじゃないんだ。いや、あれだってそりゃ怖い。でもほかに、だれも烽火のことを分かってくれないってことが、怖いんだ」
(中略)
「あの連中、どうしてそれが分からないんだろう? その理屈がどうしてわからないんだろう? 烽火を上げてないと、ぼくらはここで死ぬんだよ。おい、ごらんよ!」(本文より)

『十五少年』が困難に立ち向かう勇気と理性、そして団結を高らかに謳いあげた人間賛歌であったとすれば*1、こちらで描かれるのは一人の安いプライドと空腹によって理性がその力を封じられ、仮初の秩序が脆くも崩れ去る様です。つまり、小五の教室です。思い出すだにオエっときますね。
 ひどさの一例。

  • 孤島に漂着した直後、一人が「とりあえず火起こした方がよくね?」と発言したところ全員が「そうだ火だ! 火を起こせ! ヒャッホゥ!」みたいなノリになって結果山林が半焼したり(唯一の食料源が……)
  • 一番頭が良くてまっとうなことを言ってる少年の意見が、彼がデブメガネであるという根拠のみによって却下されたり
 読んでいる間、忘れかけていたあの恐怖・あの怒り・あのやるせなさを反芻しまくりでじたばたしました。小学校の教室を腕力ではなく言葉で渡り切ろうとした者ならば、誰でもわかるはずだ、この感覚が。
 これで作者のゴールディングさんは小説家になる前、小学校教師をやっていたというのだからもう。できすぎてますね。どんなブラックジョークだ。
 評価:【A+】

*1:読んでないので適当こいてる。でも、そういう話だろ?