秋田禎信『我が呼び声に応えよ獣』読了 / オーフェン再読(01)

 というわけで開始した。魔術士オーフェンはぐれ旅シリーズ・西部編再読運動。その一巻め。まあ東部編に比べれば軽くいけるだろーとか見積もっていたが、そうでもなかった。思ってた以上にズシンときた。というか想定外のところに荷重がかかった、の方が正しいかな。これは二十歳越えてから読む方が効くわ……。
 そうだった、東部編ばかり再読していたおかげで、精神的完璧超人としてのオーフェンの印象ばかりが強まっていたが、彼にも中二の頃はあったのだったな。この巻におけるオーフェンは、「五年前の悲しい事件を引きずっている人」ではなく、「現在進行形でアザリー事件の渦中にいる人」なのだった。それはつまり、「大人は汚ねえよ! 汚すぎるよ!」とか「彼女を守れるのは俺しかいない! だから俺だけは傍にいるんだ! たとえどんな犠牲を払ったとしてもー!」とかそういう精神性のまま気づけば五年経ってしまっていた、という人なのだった。これは辛い。この精神性ゆえ、彼はかつての友達を失い、師を失う。そこまでして守ろうとしたものさえまがい物であったことを知る。そして彼の幼年期は終わる。
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 以下、エピローグより引用。

 なんてこった──オーフェンは、目眩を覚えた。この家の連中は、自分たちの屋敷が殺し屋どもに狙われているその時に、そんなゴシップに沸き立っていたのだ。
 だが考えてみれば、ひとりで深刻になっていた自分のほうがどうかしていたのかもしれない。
(思い詰めすぎなんだ、俺は)
 抱きついてきたときと同じ素早さで身体を離したマリアベルに、ふっと微笑めいたものを返しながらオーフェンは、そんなことを思った。

 これは二十巻ラストのマジクの台詞「大袈裟に考えないほうがいいんだ。きっと、どんなことでもさ」に対応してるのだな。一巻ラストでオーフェンが至った心境に、最終巻ラストで弟子のマジクもまた達する、という構造。綺麗だなー。