秋田禎信『我が塔に来たれ後継者』読了 / オーフェン再読(06)

 バトル! バトル! バトル! バトる! な六巻め。オーフェンだけでなく、マジク・クリーオウにも「対戦相手」が用意されているあたり、シリーズ通して見ても最も少年漫画っぽい回だったといえる。ちゃんとそれぞれに見せ場があるし。
 ただその反面、ややご都合主義というか、ちょっとばかし違和感を覚える部分もあり。敵役のウオール・カーレン教室の行動はいくらなんでも博打すぎだと思う……っていうのはまあ、ウオール教師のチャイルドマン教室に対する妄執とかを想像すれば合理のみではないのだろうなーと納得できなくもないが、オーフェンがこの死地にマジクとクリーオウを同行させたというのはな。これもまた、作中でも含みを持たされているように理屈ではないのだろうが(自分の過去の象徴たる《塔》と対決する上で、《塔》を離れることで得た現在の仲間を連れて行くのが筋と考えた、というような)、しかし己の信念というか心情のために二人の命を危険に晒すような真似をオーフェンがするだろうか、と思うとな。少し不自然に見える。
 ……うーん、でもそうか、身の安全を最優先に考えれば、そもそも旅についてくんなという話になるか。二人とも、身の安全よりも欲しいものがあるからこそついてきているわけで、それだったらそこを汲んでやるのがオーフェンの親心というものなのかな。あるいはオーフェン自身の甘えか。戦力としては期待していないが、背中は誰かに見ていて欲しい、という。これが一番しっくりくるか。この時点のオーフェンはまだ完璧超人ではないのだ。
オーフェンVSハイドラント
 今巻のオーフェンは戦闘に対するミニマリズムみたいなものが発揮されてて大変格好良かった。「こと接近戦においちゃ、魔術の強さなんてもんはカケラも意味がねえんだよ──耳元で爆竹を鳴らすだけでも、人間を悶絶させることはできるんだからな」ってのはあれですね、三寸斬り込めば人は死ぬのだって奴ですね。そしてまさにこの思想を体現しているのが空間転移から寸打につなげるあのコンボなわけですよ。空間転移という大袈裟な魔術を「身体の向きを変える」という最小限の用途で使い、それで充分致命的、という。痺れるわあ。今読んでも全然いける。
 しかしハイドラントはちょっと可哀想ですよね実際のところ。彼としては“鋼の後継”なんて呼ばれていい気になってる同級生に軽く嫌味の一つでも言ってやろう、程度の気持ちであの言葉を放ったのだと思うのですけど、その結果が左顔面半壊の半殺し。そりゃあ性格も捩れますわな。救いようのないド外道みたいに描かれてるけど、半分以上はオーフェンの責任だと思う。
■クリーオウVSヴィンビ
 クリーオウの決戦能力高すぎの巻。魔術士が魔術に頼る瞬間を狙うとか、後の最強キャラであるところのジャック・フリズビーにも通じる戦法である。やれるときにやれることをちゃんとやる奴が強い、というオーフェン世界の理念を全身で表現したようなキャラだこの子は。……とはいえ、この「無知の知」的なクリーオウの強さが、東部編に入ると通用しなくなったりするあたり、なかなか物事を一概には括らない、豊かに構築された世界観だよなあ。
■マジクVSスエイン
 一方、才能は溢れんばかりにあるにも関わらず勝てないマジク。いや、クリーオウが異常なのであって、マジクは充分よくやってるのだが……しかし本人がそう思えない以上どうしようもなく、マジクの劣等感にまたプラスポイント。この劣等感が爆発してヤケクソ気味に裏返る西部編ラストがますます楽しみになるのであった。
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 それにしてもレティシャは弱い。びっくりするほど弱い。「レティシャには特殊能力『気配を読む』がある」と言った舌の根も乾かぬうちに「残念だったなレティシャ……ウオール教室の天才は『気配を殺す』ことができる」→敗北、というテニスの王子様並みに身も蓋もない高速展開である。彼女は典型的な「よーいドンでしか戦えない」タイプなんだなー。ここらへん、強さの質の違い(レティシャは模擬戦では最強クラスだった)を描いてくれるのが丁寧だな。