『UMA-SHIKA』読了

 文学フリマ購入本。はてなダイアラーの人らが集まって書いてる文芸誌で、短編小説を七本と漫画を一本収録。公式サイトもある(id:uma_shika)。
 誌のコンセプト(『不毛』や『反抗』など)からするとこの感想は誉め言葉にならないかもしれないけど、皆さん大変小説がお上手ですなー、と思った。文章は垢抜けていて素人くささ皆無。冒頭から何かしらの「異様な風景」を見せ付けることで、素早く物語に没入させる手管(短編はツカミが命!)。といった感じで、全体を通じて真っ当によくできた小説を読んだな、という印象です。……うん、やっぱりこれ、パンクロッカーに対して「普通に演奏巧いですね」と言ってるような無粋な感想な気がしないでもないな。
 まあともかく、特に面白かった三本について感想を。
■『あっちゃんの東京暴動』(id:yoghurtさん作)
 近未来の文明崩壊気味な東京と、500年前の沖縄における戦争(オヤケアカハチの乱)とを一本のバナナで繋ぐ伝奇ファンタジー。たった百人の寡兵でありながら琉球王朝を混乱の極地に追い込んだアカハチ軍の精強の秘密が、実は500年後の東京崩壊と密接に関係していて──、という。面白かった。アカハチ軍団のスパルタ人の如き一騎当千ぶりに燃えましたが、崩壊後の東京描写もまた良いです。「扇島JCTを根城とするJCT人」とか、羽田空港周辺が野犬たちの縄張りになって人が足を踏み入れぬ聖域になっている、とか。ラストの空港内部の情景は素晴らしい。そういえばこれも東京+野生だな。
 しかしヨーグルトさんは、得意の「沖縄」という飛び道具に頼り続けることに限界も感じているという。曰く「沖縄にはもう池上永一がいる」。でもなあ、これに関しては気にすんな! と言いたいです。森見登美彦万城目学を見てごらんなさい。「京都」という、沖縄よりもさらに卑怯な何でも斬れる宝刀を惜しげもなく使っているではないですか。使える武器は存分に使いましょうよ。沖縄の刃は、貴方が思っているほど錆びついてはいないと思います。
■『マリンパレス』(id:acidtankさん作)
 南北朝鮮から流入した難民によってなし崩し的に形成された九州自治区「BUNZEN」──そこと日本の国境に位置する高校(旧水族館マリンパレス)には、政治的理由により毎年日本側・BUNZEN側からそれぞれ百人ずつの生徒が入学させられていた……といったところを聞くとそれなりに地に足の着いた設定、と見せかけて一ページめから知能を獲得した日本猿の軍団(なぜか首領がマッカーサーっぽい)が登場、のっけからリアリティの梯子を外してくれます。語り口も気持ち良く、筆が走ってるなあ! という感じ。やっぱりあれだな、小説の主人公に「怒り」は重要だよなあ、と思った。語り手が怒っていると問題点が明確なので話が早い。特に短編では重要。
■『信じようと信じまいと』(id:nishiogikuchoさん作)
 ある周波数帯の音を定められた順序、定められた周期で聞かせ続けることで人を狂わせることができるという。そんな話を聞いたことがありませんか? 僕はお話の中でしか聞いたことありません。が、そんな「発狂のメロディ」がずっと背景で流れているような、不穏な空気をまとった作品でした。雰囲気良いです。
 田村と水村という主要登場人物の名前は深読みしようと思えばできそうです。田んぼはそれ自体は器でしかなく、何かを育てるには水が必要。という意味で、狂気の源泉となっていたのは田村ではなく水村の方ではないのか、という。