白い巨塔とタクティクスオウガに見る『対立する親友』構造

「前々から言おうと思ってたんだがね、鈴藤くんよ」
「はい」
白い巨塔タクティクスオウガだと思うんだよ」
「はい?」
タクティクスオウガ。君もかなりやり込んでたろう。死者の宮殿三周する程に」
「四周ですよ。しかも途中で複数回データ飛びましたし」
SFCだからねー。しかも後に出たPS移植版はやたらロード時間長くて辟易したもんだ」
「先輩、ギルバルドエンディングは見ました?」
「見た見た。『デニム王もついていない……』」
「まあ解説はさておき」
「解説?」
「気にしないで下さい。それで、白い巨塔タクティクスオウガだったんですか」
「ん? ああそう。財前五郎=デニム、里見脩二=ヴァイス、浪速大学=ウォルスタ解放軍、と当て嵌めてみるとその類似は明らかだ」
「えっと、ロウルートなんですね?」
「うん。財前と里見は互いに能力を認め合う親友同士であり、掲げる理想も『多くのガン患者を救う』という点で共通したものだった。これはデニムとヴァイスが『ウォルスタ民族を幸福にする』という点で共通の理想を持っていたことに対応する」
「しかし理想の実現方法において、考えが対立するわけですか」
「二人の対立を決定的なものにするのが、佐々木庸平の医療裁判=バルマムッサの虐殺、というわけだ。デニムこと財前は言う。『この裁判に負けたら、僕は大学病院を追われメスを取り上げられる。そうなれば、僕がこの先救うであろう数千人のガン患者を殺すことになる。即ち、僕が正義だ!』。ウォルスタ解放軍こと浪速大学もこの大義のもと、手を汚して裁判を勝ちに行く」
「とりあえずデニム財前には、お前の他にも外科医は沢山おるやんけ、と反論できそうですが」
「いやいやしかし。作品世界で財前は世界有数の腕を持つ外科医、Dr.テンマ級の天才という設定になっている。この主張が通るだけの足場固めは成されているのだ」
「ふむ。まあ良いでしょう。それで」
「一方、ヴァイスこと里見は大学の汚い手口に反発し、原告である遺族側について証言台に立つ。『一人一人の患者に向き合わずして何が大義か。財前よ、大学病院よ、目を醒ませ!』。結果、彼は鵜飼教授に肩を叩かれ、辞表を出すことになるわけだ」
「あ、鵜飼教授がロンウェー公爵ですね。はまるなあ」
「残念ながら暗殺はされなかったがね。そしてその後の展開。これがまた燃える。若しくは萌える。袂を別ったものの、本当は里見のことが好きで好きでしょうがない財前は、浪速大ガンセンターの内科部長に彼をスカウトするが、断られてしまう。その時の財前の捨て台詞。『里見、君は必ず僕に泣きついてくる。必ずだ』。萌えー」
「萌えー」
「裁判所での倒れ際に『君の指図は受けんよ里見……!』。本当は好きな癖に。萌えー」
「萌えー」
「さて。このままロウルート展開で行くのならば、デニム財前はロンウェー鵜飼を倒し、ヴァイス里見と和解するはずであった。しかし、そうはならなかった」
「二人は結局和解しませんし、財前死んじゃいますし」
「一審後の財前の境遇はむしろ、カオスルートのヴァイスに近いものだった。カオスルートのヴァイスは野心で身を滅ぼし、非業の死を遂げる。財前は野心ゆえではないが、やはり無念の死を遂げた。また、重要なエピソードとして、大学を追われた里見の元に、その身を案じた大河内教授が訪れる、というものがある。この大河内教授にレオナール、里見にカオスルートで解放軍を追われたデニム、が重なって見えたのは僕だけではあるまい」
「えーと、つまり、一審の判決あたりを境にして、ルートが変わった?」
「そう、一審前は『財前=デニム、里見=ヴァイス(ロウルート)』だったものが、一審後には『財前=ヴァイス、里見=デニム(カオスルート)』に変わっている。つまり、白い巨塔は一本でタクティクスオウガのカオス・ロウ良いとこ取りが出来るドラマだったのだ!」
「だったのですか!」
 
「にしても、です」
「うん」
「『白い巨塔』『タクティクスオウガ』。両方の知識を併せ持ってないととてもついて来れない話題だったわけですが、そんな人は全人口の何%くらいでしょうね」
「さあ。別に僕らは知ってるんだから、問題ないんじゃ?」
「いや、そうなんです。問題ないんです、別にいいんです。ただ──」
そう言って、鈴藤くんは空を見上げるのでした。