そりゃあシベリア鉄道真っ直ぐですよ。

 文学部でロシア文化を学ぶ後輩女史が「指導教官がやたら可愛い」という話を連発し、挙句の果てに形態模写まで始める始末で非常に腹立たしい。畜生自慢しやがって! どうせ理学部の教官なんてむくつけき中年男性ばかり、女性といえばみどりちゃん(推定年齢55歳、仮名)だけですよ! フンだうらやましくなんかないやい!
 「じゃあ授業見に来ます? 明日の四限ですけど」
 「行く! 絶対行く! ロシア語なんて《ウォッカ》と《マトリョーシカ》しか知らないけど!」
 「ウォッカはロシア語では《ヴォットカ》ですけどねー」
 そういうことになった。
 一夜明けて今日。
 実は三限からゼミであり、四限までに終わる見込みはゼロである。
 しかしそこは大学生活五年目のリンドウくん。
 「出席だけ書いて四限になったら抜け出せばいいのだよ。ガッハッハ」
 学部生ならまだしも、院生がこんなことでは科学技術立国日本の明日は昏い。
 しかし教室に行くと、今日に限って学生が少ない。さてはみんなわかばちゃん(仮名)の噂を聞きつけてロシア文化論を受けに行ったのでは──? との考えがよぎるが、いない連中は野外調査に出かけているとのこと。みんな真面目やね。しかし参った。この人数では抜け出すとき目立つ。
 悪い事は重なり、今回の発表は私の分野に関わる内容。発表後の議論には当然私が加わらねばならない。教授は確実に私に話を振ってくる。……まずい、逃げ出せない。
 結局わかばちゃんには会えず仕舞い。
 畜生イワンのばか。
 ゼミの後、今週末にある学会に関して教授と打ち合わせ。発表の傍ら雑用などのバイトをしないかと持ちかけられる。
 「会場設営とちょっとした司会進行の手伝いだけ。日給7000円。どうだ?」
 おお。どうせ学会は最後までいるわけだから拘束時間は同じ。結構美味しいじゃないですか。勿論やりますよ!
 「そうかそうか、やってくれるか。因みに学会は参加費3000円、準学会員登録に4000円かかるから。ガッハッハ」
 3000円+4000円=7000円。
 世の中、美味い話なんてそうそうない。人生で初めて、僕は素直にこの言葉を使った。
 夕餉の後、サークル部屋で久々にがっつり麻雀。
 親で迎えた南二局、人生初のダブルリーチ。人生初の多い日だ。
 「これで一発ツモ来たら笑うなー」
 本当に来た。ダブリー即ヅモピンフドラ1。親ッパネ。
 全体を通してわりと勝ったが、一年生くんが結構かぶってしまったのでちょっと罪悪感。やっぱり賭け事ってのは手加減なしの人間関係でやらんと気持ち良くないね。一年生くんには今度何か奢ってあげて心のバランスを取ろう、自分のために。ほら、気持ち悪い。