『冷たい校舎の時は止まる』『恋々蓮歩の演習』感想

 久しぶりに本の感想。あんまり読んでもいないんですが。
 辻村深月『冷たい校舎の時は止まる』

冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

 下巻はそれなりに楽しめました。真相はまあ、特定はできずとも予想したものの一つ、といったところ。本当、ミステリマニアって奴は嫌ですよね。膨大なケース・スタディを背景に、どんなオチでも「まあ、予想の範囲内だね」。そんだけレンジ広ければ当たり前だよ!
 というわけでミステリな部分は置いといたとしても、お話自体今一つ。キャラクターの内面を描くのにあれだけページ数を割いているのに、全く魅力が出てこないのはなぜだろう。周波数が合わなかっただけかな。
 ただ、『ホスト』の性格、というか心情は極めて気持ち悪いですね。可能性は低いですが、あのやけに爽やかなオチは皮肉なのかもしれません。いや、ホント可能性低いですが。
 評価(上中下総合):【C】
 
 森博嗣恋恋蓮歩の演習』(再読)
恋恋蓮歩の演習 (講談社文庫)

恋恋蓮歩の演習 (講談社文庫)

 Vシリーズ第六話。
 恋愛小説です。森に恋愛語られたくねーよ、と思う方はかなり多いと踏んでいるのですが、騙されたと思って読んでみてほしいです。しっとりとして、それでいてベタつかない、大変心地よい話に仕上がっています。「ベタつかない? は? ドロドロしてない恋愛話なんて興味ないね」という百戦錬磨の方には無理にお勧めしませんが。所詮僕がガキなんです、すみません。
 ちょっとツボに入ったのは、大笛梨枝のアーモンド・ポッキーのエピソード。
 『人形式モナリザ』で、紫子さんが子供のとき犬に噛まれたという話をするシーンもそうなんですが、キャラクターにプチトラウマみたいなものを語らせる手法は本当に巧いと思う。大仰じゃない、誰にでも経験ありそうな、なのに本人にはずっと引っかかっている、忘れられない出来事。一気にキャラクターへの感情移入度が上がりますね。
 保呂草のハードボイルドっぷりも素晴らしい。王道というのは強いからこそ王道なのだ。こういうベタな記号的キャラクターに、森センスで少し味付けするととんでもなく格好よくなる。改めて感心。
 さて、重要なのは題名。いつも通り今一つピンとこない、煙に巻いたような印象を受けるのだが、エピローグを読むと、内容を実によく表した名タイトルだということを理解させられる。
 二人の恋愛は、演習だったのだ──。
 評価:【A】