牛の首エフェクト

子どもの王様 (ミステリーランド)

子どもの王様 (ミステリーランド)

 殊能将之『子どもの王様』読了。
 ……しまった、牛の首エフェクトが発動した。牛の首エフェクトというのは僕がたった今作った言葉なのでご存知ないかもしれないが、要は読前に期待しすぎたせいで実際に読んだ時の楽しみが減衰してしまった、ということだ*1。これを防ぐには出来るだけ事前に情報を仕入れず、期待しないで読むべきなのだが、情報がなければそもそも手を伸ばさないわけで、何事もバランスが肝心、とアリストテレスも言っている。
 まあそういった不幸な出逢いをしてしまったものの、とても志の高い作品であるのは確かである。キーワードは“身も蓋もなさ”。『かつて子どもだったあなたと少年少女のための"ミステリーランド"』と銘打たれたシリーズの第一弾として刊行され、その通り児童文学の体をとっておきながら、そこで描かれる事件には全く情緒がない。特撮ヒーローの幻想や夢物語に浸る小学生が直面したのは、あまりにも現実的で、どこにでもある、夢もロマンもない悲劇なのだ。“子どもの王様”がするような悪事には、正義の味方は介入しない。なんともうすら寒く、容赦のない話ではないですか。
 評価:【A】【心】
 最近【心】付きの作品によく出会う。良いことだ。

*1:牛の首とは、小松左京の短編に出てくる、誰もその内容を知らない怪談。中身が分からない怪談が一番怖いのよー、ということ。