トキオーン? ここはチバーだぜ

キマイラの新しい城 (講談社ノベルス)

キマイラの新しい城 (講談社ノベルス)

 殊能将之『キマイラの新しい城』読了。
 例えば、ですよ。
 もし貴方が(そう、今これを読んでいるそこの貴方だ)、どうしても避けられない何らかの事情により、江戸時代のお侍さんが現代にタイムスリップしてきていじめられっこの小学生の家に居候してなんだかんだで大騒動ぎゃー、的な話を書かなくてはならなかったとします。いや例えばですから。そこは呑んでください。んでその際に――
 「ケンイチ殿、この四角い箱はなんでござるか」
 「ああこれはテレビって言ってね(パチ)」
 「なんと! 中に小さな人が閉じ込められてるでござる!」
 「あはは違うよー、これは遠くの映像を」
 「いま助けるでござるー!!(ガチャーン ビリビリー)」
 「うぎゃー」
 「し、しびれるでござる〜」
 ――みたいな定型ネタ、臆面もなく書けますか? 殊能先生は書いたよ! これに近いものを!
 そういうわけで、ようやく読めました殊能先生の最新刊は噂に違わぬ見事な出来映え。千葉に新たなテーマパークを創るべく、中世ヨーロッパの古城を移築してみたらおまけに領主の幽霊までついてきた! そしてテーマパークの社長に取り憑いた! 領主は750年前の密室殺人(被害者は自分)の真相が気になって現世を迷い続けているという。名探偵・石動戯作は事件の謎を解き明かし、見事領主を成仏させることができるのか――? という話なんですが、この領主のカルチャーギャップネタがいちいち面白く、飽きさせません。センス○な人が書くベタはこれほどまでに強いのか、と感心。
 また領主は『稲妻卿』の別名で呼ばれるほどの凄腕の騎士であるため、デフォルトで血の気が多く、そこがまた宜しいです。中世騎士VSヤクザのシーンは圧巻。強いぞ僕らの稲妻卿。
 300ページの間一瞬たりとも退屈せず、もっと稲妻卿の活躍がみたいなーと思ってるうちに劇終。余韻はあれど、それ以外に残るものなど何もない。エンターテイメントの真髄を見た気がします。
 
 評価:【A+】