思い出し読書感想文 / 倉阪鬼一郎『内宇宙への旅』

 書影がなかったのでリンクだけ(ISBN:419905121X)。徳間デュアル文庫ということで、いくら倉阪鬼一郎先生といえど、それなりに軽い、まあまあとっつき易いものを持ってくるだろうと想定していた。インタビューで「発表レーベルはそれなりに意識する」みたいなこと言ってたし。想定していたわけだが──。
 一体誰に頼まれてこんなことを?
 ざっくりとあらすじを紹介しておくと主人公であるところの作家・倉阪鬼一郎が『内宇宙への旅』という小説を書く、書くために三重県の実家に帰省する。と、ここまででもう既に内容の七割(ページ換算)は語れてしまっているのだが、この作品の恐ろしいところはあらすじでは決して語れないところに存在する。表現できない。この凄まじさは実際に本を手にとって頂かないと伝達できない。『日本唯一の怪奇小説家』の自称は伊達じゃない──。『怪奇』は『小説』にじゃなく、『小説家』にかかってるんだ。先生の執筆動機が一番の怪奇。
 こんなこと普通思いつかないし、思いついたところで普通やらない。仮にこれをやれば確実に売れるという公算があったとしても多分やっぱりやらないし、そして実際のところこんなことをしたところで売上にはなんら結びつかないということくらい先生も先刻ご承知であろう。それなのに。それなのに──。
 一体誰に頼まれてこんなことを?
 
 評価:【B】【心】