乙一『天帝妖狐』読了

天帝妖狐 (集英社文庫)

天帝妖狐 (集英社文庫)

 中篇二作を収録していますが、一作目の『A MASKED BALL』が実に良かった。高校のトイレの落書きを巡る物語。
 ミスディレクションやら伏線やら、そこらへん結構露骨に書いておられるので、犯人も、犯人に見せかけたがってる人物も、慣れた読み手ならほぼ確実に見切れるでしょう。僕も見切った。へへん。でもでも、そんなことで価値の落ちる作品ではないのです。重心は一つ、犯人ではない、ある人物の正体の明かし方。これがもう、すこぶるつきに上品で、この1シーンを書いただけであんたもう完全に勝ってるよ、と思いました。負けた奴? そりゃ僕さ。
 表題作の『天帝妖孤』もなかなか以上。友達がいないから一人で狐狗狸さんやってたらものすごいよく喋る狐狗狸さんが召喚されて狐狗狸さんだけが友達さ、という導入部がね、もう……。美しい。味わい深すぎる。
 
 評価:【A】