今週のテニスの王子様(Genius338 『悪魔』)

 これまでのあらすじ:
 ──コート上で少年が磔刑に処されるとき、キミは緋色の悪魔を目撃する!
 切原赤也はテニスが大好きなごく普通の中学生。テニスの名門・立海大付属中学に入学した赤也は、得意の殺人テニスを武器に、皇帝・真田、紳士・柳生ら頼もしい仲間とともに全国大会優勝を目指す!
 準決勝、名古屋星徳学園戦。赤也の相手は同じく殺人テニスの使い手・クラウザー。クラウザーの48の選手殺しの一つ“血まみれクルセイダー”を食らってしまい、大ピンチに。そのとき、赤也の中に封印された古の悪魔の力が目を覚まして……!?

 ヴィクター3・デビル赤也覚醒の件。あれです。生半可な聖なる力で攻撃してしまったことで、逆に悪魔を目覚めさせてしまったのだと思います。なんだ逆にって。
 とはいえ、本当に恐ろしいと思ったのは覚醒前のシークエンスです。赤也くんが血まみれで磔にされていたり血まみれで倒れたりしているわけですけれども、この間一切、ボールの描写がないという。血しぶきは描いてるのに、ボールに関しては一切。
 これ、何も知らない人が読んだら何が起こってるのかわからないと思うんですよね。打球を当て続けた結果ああなった、とは到底。しかし、僕らにはわかります。赤也磔刑の見開きの時点で「ああ、“テニスは格闘技”思想の人に当たったんだな、可哀想に」と即座に理解できます。そして許斐先生もまた、我々が理解できるということを理解しているため、もはや“打球が人体に当たる瞬間”を描く必要を感じていない。
 この信頼関係が恐ろしい。この信頼関係に裏打ちされた“省略”は、テニスの王子様という作品を更なる次元に止揚する。その芽を持っているような気がしてしまう。
 ・「本当に昨年の王者か? 我々の国なら小学生でも勝てるぞこのワカメ野郎……と」
 何気にひどい一言を付け足している柳生ヒロシ。僕の中の紳士・柳生はこんなひどいこと言わない。よってこれは詐欺師の方。