ガンダム(ぽいもの)に乗って学ぶ仕事論 / 森博嗣『ZOKUDAM』読了

ZOKUDAM

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 まさかの続編、Zシリーズ第二弾。今度は本当にガンダム(ぽいもの)に乗って戦います。との言い様はいささか精確さを欠きますかね。言い直しますと、ガンダム(ぽいもの)に乗って戦うために、主人公が延々とマニュアルを読んだりします。1000ページ級のマニュアルを読み、疑問点を抽出し、技術部門に意見を挙げると、それを元にソフトが修正され、また一から改訂版マニュアルを読む羽目になったりします。このマニュアル研修だけで、とりあえず半年以上かかったりします。
 要するに、現実レイヤーでガンダムに乗ろうとするとこうなりますよ、という空想科学読本的なジョーク集。とまず言うことができましょう。基地から現場に急行するのに、まずロボットをパーツ単位に分解して、トレーラーに載せ、現地に着いたら作業場を設営してから再度組み立て。この間最短で一週間。というような。
 しかしこの作品の一歩先んじているところは、この現実レイヤーをロボットに関する技術面だけでなく、乗り手の精神の面にも適用している、というところでしょう。主人公は上司を殴ってキャリアを踏み外し、挙句「開発中の巨大ロボットに乗る」というわけのわからない新部署に飛ばされてしまったサラリーマン(女性)。この仕事が一体何の役に立っているのか、もしかしてものすごく不毛なことをやらされているのではないか、そんな予感はあるものの、これが仕事であり、給料をもらっている以上、言われたことはそれなりに真面目にやる。やってるうちに慣れてくる。慣れてくればそれはルーチンになり、効率よくこなせればちょっとした達成感もあったりして、まあ詰まるところ、普通の仕事になる。この、「普通のサラリーマンが巨大ロボットに乗る仕事を仕事として受け入れるまでの過程」の描き方が実にこう、自然な感じで、巧いです。どんな突飛なことでも、それが仕事だと言われれば、意外と簡単に受け入れられるものなんですよね、人間って。
 そんなわけで、こんなしょうもない話なのに、最後にはわりとまっとうな仕事論を読んでいるような気にもなってきました。奇妙な味わいです。
 
 評価:【B+】