秋田禎信『我が過去を消せ暗殺者』読了 / オーフェン再読(05)

 「最もヤバイ敵は…『過去』!」というのはスティール・ボール・ラン15巻のオビに書かれていた文句であるが、まさにこの煽りをつけるに相応しい五巻め。ここから次の六巻めを合わせて《牙の塔》編ということで、オーフェンが魔術を学んだ故郷であるタフレム市が舞台。メインテーマはオーフェンの過去との対決・および折り合いということになろうが、それと並行して、かつてのクラスメイトであり、オーフェンにとって家族同然であったチャイルドマン教室の面々(これがまた魅力的なんだみんな)の現況を語り、また魔術士たちの歴史・文化・思想を語り、更にはマジクの魔術士としての自意識の芽生えを語り──と、大変リッチな内容になっている。面白いなー。ここから西部編ラストまではもうノンストップだ。完全にお話が軌道に乗った感。
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「だが結果として、君の魔術は強大になっただろう、ティッシ──死の絶叫と呼ばれるほどに」
「その、ふたつ名ってやつ、やめられないのかしら──楽屋で芸の見せっこしてるみたいで、みっともないって思わない?」

 登場していきなり二つ名カッコワルイ! という身も蓋もないメタ台詞を吐くティッシことレティシャ姉さんに早速心を鷲掴まれ。もう、僕はレティシャ姉さんのことが好きすぎるよ! ちなみにチャイルドマン教室メンバーで他に好きなのはハーティア。共にこう、「人生負け犬ルートが固定化されつつあって疲れ果ててはいるんだけれどまだ眼に光は灯っているぜ、錆びた鉄のような色の光が」といった感じなところがたまらなく好き。
 しかしチャイルドマン教室といえば、ほんとこの七人のキャラの立て方は巧いよな。チャイルドマン先生は天才なので、その七人の生徒は誰一人として師の技能すべてを受け継ぐことはできそうになかった。なのでチャイルドマン先生は、自分の技能を七つの専門分野に分けて別々に教えることにした──が、分割されたその技能はなぜか、受け継ぐ生徒側の持つ欠点とことごとく相反するものだった、という。

(チャイルドマンはまるで……俺たちの欠点をそれぞれ最初から見抜いていて、わざとそれに相反するような技能を教えていったみたいだ……)
 冷静さのない司令官、臆病な兵士、腹心たるまいとする補佐、殺せない暗殺者──
 飛べない小鳥たち。オーフェンは、胸中でつぶやいた──《塔》のてっぺんにぶら下げられた、チャイルドマン教室という名前の巨大な鳥籠に閉じこもっている、飛べない小鳥たちの群れ──

 チャイルドマン先生としては多分、この欠点を乗り越えて能力を生かせた者こそが後継者たり得る、とか考えてこうしたのではないかと思うのだが*1、この時点の読者からしてみれば「能力と性格をセットで覚えられて楽」というメリットもあるのだった。さすが先生、隙のない仕事をするものである。

*1:ちなみにこの考えからすると、コルゴンは唯一の例外で欠点がない=チャイルドマンと同等、であったがためにチャイルドマンを「越える」ということはなかった、とかそういう話なのかなーとか。