『万物理論』感想。というかHワード。
- 作者: グレッグ・イーガン,山岸真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/10/28
- メディア: 文庫
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くはー、面白かった。科学・宗教、政治に経済、メディア論にジェンダー論、果ては宇宙論に至るまで、イーガン先生語る語る。社会派ですよ。本格社会派SF。
舞台となる西暦2055年、人々の《帰属するもの》はさらなる多様化・細分化の一途をたどっていて、それらは結構断絶気味だ。なにせ性別からして七つある(純男性、純女性、強化男性、強化女性、微化男性、微化女性、汎性)。思想でいえば、《テクノ解放主義》が「科学技術は万人のものである、政治・経済が介入して制限かけるもんじゃねえ」」と謳いあげる一方で、「科学によって明らかにされる真実は人間に有害である」と主張する《無知カルト》なんて集団もある。メディアは極端から極端に走り、『“バランスを取る”ことは念頭にない』。なかなか真っ当な未来予想と思える。
みんながそれぞれの神を持ち、人類全員自閉症、そんな状況下でなんとか互いに橋を渡し、うまくやっていくにはどうするか。それがテーマの一つではあるだろう。これに関し、《Hワード》のくだりが面白い。以下引用。
「意見を異にしたり、理解できなかったりする人々にむけてあなたが提供できる、もっとも押しつけがましいことはなんですか?」
「さあ。なんですか?」
「その人々を治癒すること。それが最初のHワードです。健康(health)」
(中略)
「それで、もうひとつのHワードはなんなんですか? 大きいほうは?」
「ほんとうにおわかりになりませんか? ではヒントを。論争に勝とうと思ったら、考えうるもっとも知的に怠惰な方法とはなんでしょう?」
「答えをいってほしいんですが。なぞなぞは苦手なので」
「論争相手が“人間性(humanity)”を欠いている、と主張することです」
どんなに理解不能だからって、勝手に相手を異常と見なし、「治療してあげよう」と言いだすことの禁止。「相手は人間として間違っているから、人間として正しい私に同意するべきである」と考えることも禁止。それを言っちゃあお終いよ、議論もクソもありゃしない、というわけだ。これはかなり重要である。覚えて帰るがよろしかろう。
――とはいえ、これを実践するのって難しいんだよね。この間また、「私AB型なんですけど、Aの性格の方が強く出てるみたいで、几帳面なんです」とか言う人を見た。人間性に疑問を差し挟みたくもなる。
評価:【A+】【心】