ぼくらの心の中のアメリカ / 『サムライ・レンズマン』感想

サムライ・レンズマン (徳間デュアル文庫)

サムライ・レンズマン (徳間デュアル文庫)

 古橋秀之サムライ・レンズマン』読了。
 アメリカのSF作家E・E・スミス作の古典スペースオペラレンズマン』シリーズのスピンオフ企画である。『レンズマン』をまるで知らないなどと言ううっかり屋さんは、とりあえずレンズマン-Wikipediaにでも目を通しておくが良いだろう。……え? 僕? 僕は読んだことあるのかって? ……まぁそのー(田中角栄)、SFにはどうも疎くて。えへへ。
 ともかく、あらすじ。
 主人公は日系アルタイル人のシン・クザク、通称《サムライ・レンズマン》。東洋の神秘《アルタイル柔術》を極めし彼は、レーザー光線の飛び交う中、日本刀一本で悪を仕留める無敵の戦士だ。レンズマン多しといえど、こと白兵戦に限り、彼に敵うものなど一人もいない。
 かつて宇宙を震撼させた最悪の海賊組織《ボスコーン》の残党勢力が再び結集しつつあることを知ったクザクは、仲間と共に調査を開始、かつてない危機の存在を知る。名立たる英雄たち(=原作キャラ)と協力し、クザクは新たな悪に立ち向かう――。
 以下、雑感。色々おいしいネタに触れているので注意。
・SF設定の解説が超丁寧。文章だけでなく、サブエピソードでわからせてくれる。原作知らずでも大丈夫(たぶん)。
・『間違ったサムライ』シン・クザクであるが、過剰なギャグにはしていない。せいぜい事あるごとに切腹したがる程度(せいぜい?)。
・クザクの精神的バケモノっぷり(本心が全く理解できない)はいかにも当時のアメリカ人が書いたサムライっぽくてマル。『キル・ビル』ではなく『ラスト・サムライ』って言えばわかるかな。
・クザクのスペック高すぎ。《明鏡止水》はあらゆる殺意を反射する……! 「敵意、殺意を持つ技なら いかに速かろうがものの数ではない」
・それに対する敵の策が『殺意のない機械の義手で攻撃する』。恐怖を持たない化(バケモノ)器物*1かっつの。
・『クジラのジョナサン』は面白い。クジラ=神秘的、クジラ=人間の友、てなアメリカ価値観への皮肉? かも。
・豪快すぎる兵器の数々。惑星爆弾を越える恒星爆弾。戦闘ロボットはとりあえず億単位。
・太陽ビームの弱点は遅さ。この世界では光速は『遅い』。
・第二段階レンズマンの中ではトレゴンシーが楽しかった。触手うねうね系異星人だがアルタイル柔術かぶれ。無理に正座してドウモとか言う。可愛い。もっと活躍してほしかったなあ。ヴァン・バスカークは何のために出てきたの?
・図式超単純。ボスコーンは絶対悪、レンズマンは絶対正義。アメリカだ……。僕らの心の中のアメリカがここにある!
 総括。色々と原作の雰囲気が想像できて良いスピンオフなんだけど、ちと原作キャラが多く出すぎだったんじゃないかな。キムボール・キニスンはさすがに見せ場たっぷりだけど、《ドラゴン・レンズマン》ウォーゼルとか外見のわりに活躍は地味。それだったらそのページ数をクザクに回してほしかった。焦点がボケ気味かも。
 あと、原作がそうなのだろうから仕方ないのだけど、ここまでド直球な話ってのは、僕が古橋秀之に求めているものとはちょと違った。「オレもこういう正統派書けるんだぜ」って言いたかったのかな。サムライはその照れ隠しか。
 
 評価:【B+】

*1:獣の槍のこと。