ジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』読了。

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)

 短編集です。“Death”“Doctor”“Island”の三単語の順列組み合わせからなるタイトルを持つ“島”三部作に、『アメリカの七夜』『眼閃の奇蹟』を加えた五編を収録。
 どの作品も色々と解釈の余地を残す感じですが、二回読んだらなんとなくわかったような気になれましたよ。なんとなくですが。特に好きなのは表題作と『アイランド博士の死』かな(というか他はまだよく理解できていない)。
 ◆まえがき
 たかがまえがきと思って甘く見てはならない。『デス博士の島その他の物語』が書かれた当時、すなわち1971年における、アイザック・アシモフドジッ子ぶりが楽しめる萌えエピソードが語られる。さらに加えてウルフ先生、ちゃんとまえがきを読んだ真面目な読者へのご褒美として、『島の博士の死 Death of the Island Doctor』なるショートショートまで書いちゃってる。しかもこれが結構な出来。どうも僕は『元インテリのちょっと困ったおじいさん』というキャラに弱いらしい。ほんわかします。
 ◆デス博士の島その他の物語 The Island of Doctor Death and Other Stories
 孤独な少年の前に本の中のキャラクター達が現れるという、ボヘミアン・ラプソディ(スタンドの方)みたいな話。悪役だけど格好良いデス博士がお父さん、デス博士を倒そうとする正統派ヒーロー・ランサム船長がお母さんの再婚相手にそれぞれ対応している、と思いきやラストで再婚相手の人がデス博士みたいな行動を取る。大人の世界はわけわかんないよぎゃー、という少年のイヤイヤ感がよくわかる。セックスとドラッグしかないのかあんたら。
 ◆アイランド博士の死 The Death of Dr.Island
 舞台設定が美しすぎるSF。木星を周回するガラスでできた人工衛星。その形は球体で中空。球の内側には海がへばりつき(反重力みたいなもの?)、また、意思をもつ島“アイランド博士”が存在する。この空間に、治療のため三人の精神病患者が送り込まれる――。この状況だけでもう、わくわくするではないですか。
 ◆死の島の博士 The Doctor of Death Island
 一番とっつき易かったものの、最終的には一番わからなかった話。この物語自体スピーキング・ブックが語ったもので、本になることで真に不死を獲得した、とそういう話だとは思うんだけど……マーゴット博士は誰なんだ。
 
 評価:【A+】【心】